一人前の大人にするための子育てのポイント③
「子育てでいちばん大切なことは何ですか?」という質問に対する私なりの答えの三つ目です。結論から言えば、「親に感謝できる」大人にすることです。
『僕をささえた母の言葉』というお話の一部を紹介いたします。
僕が3歳のとき父が亡くなり、その後は母が女手ひとつで僕を育ててくれた。仕事から帰ってきた母は、疲れた顔も見せずに晩ごはんをつくり、晩ごはんを食べた後は内職をした。毎晩遅くまでやっていた。母が頑張ってくれていることは、よくわかっていた。だけど僕には不満があり、僕はいつしか母にきつく当たるようになった。それでも母はこんな僕のためにがんばって働いてくれた。
小学校6年のとき初めて運動会にきてくれた。運動神経が鈍い僕はかけっこでビリだった。悔しかった。家に帰って母はこう言った。
「かけっこの順番なんて気にしなくていい。おまえは素晴らしいんだから」
僕は学校の勉強も苦手だった。成績も最悪。自分でも劣等感を感じていた。だけど母はテストの点や通知表を見るたびにやっぱりこう言った。「大丈夫 おまえは素晴らしいんだから」と。僕にはなんの説得力も感じられなかった。母に食ってかかったこともあった「何が素晴らしいんだよ!?どうせ俺はダメな人間だよ」それでも母は自信満々の笑顔で言った「いつしかわかる時がくるよ。おまえは素晴らしいんだから」
僕は中学2年生になったころから仲間たちとタバコを吸うようになった。母は何度も学校や警察に呼び出された。いつも頭を下げて「ご迷惑をかけて申し訳ありません」と あやまっていた。
ある日のこと、僕は校内でちょっとした事件を起こした。母は仕事を抜けて学校にやってきていつものようにあやまっていた。教頭先生が言った。「お子さんがこんなに”悪い子”になったのはご家庭にも原因があるのではないでしょうか」その瞬間 母の表情が変わった。母は明らかに怒った眼で、教頭先生をにらみつけ、きっぱりと言った。「この子は悪い子ではありません」その迫力に驚いた教頭先生は言葉を失った。母は続けた。「この子のやったことは間違っています。親の私にも責任があります。ですがこの子は悪い子ではありません」
僕は思い切りビンタをくらったようなそんな衝撃を受けた。翌日からはタバコをやめた。その後中学校を卒業した僕は高校に入ったが、肌があわなくて中退した。そして仕事に就いた。そのときも母はこう言ってくれた。
「大丈夫。おまえは素晴らしいんだから」
仕事を始めて半年くらい経った時のことだ。仕事を終えて帰ろうとしていたら、社長がとんできて言った。「お母さんが事故にあわれたそうだ。すぐに病院に行きなさい。」
病院に着いたとき、母の顔には白い布がかかっていた。葬式のあとで親戚から聞いたが、母は実の母ではなかった。実母は僕を産んだときに亡くなったらしい。母はそのことをいつか僕に言うつもりだったのだろう。もしそうなったら僕はこう伝えたかった。「血はつながっていなくてもお母さんは僕のお母さんだよ。育ててくれてありがとう」と。
この話の主人公は辛いことがあった時には、母の「大丈夫。おまえは素晴らしいんだから」という言葉を支えに頑張りました。「親に感謝できる」大人にするためには、親が子どもを愛するということが大事です。愛するというのは、子どもの全人格を認めるということです。時にはお子さんが、親にとって都合の悪いことをするかもしれません。そんな時にも人格を認める愛の言葉を口にしてあげてください。その愛の言葉がお子さんの人生を支えることになるでしょう。
親学推進協会講師 杉本哲也
***杉本哲也氏***
昭和54年生まれ、大阪府八尾市出身
京都大学大学院工学研究科修了
味の素株式会社、松下政経塾、衆議院議員政策担当秘書、総合幼児教育研究会客員研究員を経て現在
幼稚園・保育園の経営者向けの塾・自彊不息塾塾長
幼年国語教育会 理事
一般社団法人 実践人の家 理事
国内の保育園・幼稚園だけでなく、フィンランド、オーストラリア、シンガポール、インドネシア、バングラデッシュ、ミャンマーなど海外の幼稚園・保育園・小学校でも幅広く講演をしている。