子どもを幸せにするための子育てのポイント③
子どもを幸せにする3つ目のポイントは「ありがとう」と思える感謝の心および共生意識を育てることです。
食肉加工センターの坂本さんの仕事は牛を殺してお肉にする仕事です。坂本さんは、殺される牛と目が合うたびに〈いつかこの仕事をやめよう〉と思っていました。ある日、次の日に肉になる牛を乗せたトラックがセンターにやって来ました。しかし、いつまでたっても荷台から牛が降りてきません。坂本さんは心配になって覗いてみると、十歳くらいの女の子が、牛のお腹をさすりながら話しかけている声が聞こえてきました。
「みいちゃん、ごめんねぇ。みいちゃんが肉にならんとお正月が来んて。みいちゃんば売らんとみんなが暮らせんけん」。坂本さんは〈見なきゃよかった〉と思いました。トラックから降りてきた女の子のおじいちゃんが、坂本さんに頭を下げました。「みいちゃんは、この子と一緒に育ちました。だけん、ずっとうちに置いとくつもりでした。ばってん、みいちゃんば売らんと、この子にお年玉も、クリスマスプレゼントも買ってやれんとです。明日はよろしくお願いします」。坂本さんは、また〈この仕事はやめよう〉と思い、明日の仕事を休むことにしました。家に帰り、そのことを小学生の息子のしのぶ君に話しました。しのぶ君は〈ふーん〉と言って黙っていました。
その夜、一緒にお風呂に入ったとき、しのぶ君は坂本さんに言いました。「やっぱりお父さんがしてやった方がよかよ。心の無か人がしたら、牛が苦しむけん」。しかし坂本さんは休むと決めていました。翌朝、しのぶ君は学校に行く前に叫びました。「お父さん、今日は行かなんよ!」。坂本さんは渋い顔をしながら仕事場へ出かけました。
坂本さんが牛舎に入ると、みいちゃんは他の牛がするように角を下げて威嚇するようなポーズをとりました。「みいちゃん、ごめんよう。みいちゃんが肉にならんと、みんなが困るけん。ごめんよう」と言うと、みいちゃんは坂本さんに首をこすり付けてきました。「みいちゃん、じっとしとけよ。動いたら急所をはずすけん、そしたら余計苦しかけん、じっとしとけよ」と坂本さんは言い聞かせました。みいちゃんがちょっとも動かなくなったその時、みいちゃんの大きな目から涙がこぼれ落ちてきました。坂本さんは、牛が泣くのを初めて見ました。おじいちゃんは、その肉を少しもらって帰り、家族みんなで食べましたが、女の子は食べませんでした。「みいちゃんのおかげでみんなが暮らせるとぞ。食べてやれ。みいちゃんにありがとうと言うて食べてやらな、みいちゃんがかわいそかろ? 食べてやんなっせ」。女の子は泣きながらこう言って食べました。「みいちゃん、いただきます。おいしかぁ、おいしかぁ」
ご飯を食べる時に「いただきます」と言いますが、「有り難く命を頂きます」という感謝の気持ちを込めて親子で一緒に唱えることが共生意識につながります。
実は共生意識は家族で共有する時間を増やすことで育つのです。年末にお餅つきをして正月に雑煮を食べたり、雛祭りに雛飾りを眺めながら蓬餅や雛あられを食べたり、端午の節句に兜を飾って柏餅やチマキを食べたり、七夕で短冊に願い事を書いたりと、季節の行事を家族一緒に行うことで共生意識が高まり「自分は一人で生きているわけではなく、家族と共に生きているのだ」と孤独感がなくなります。日々忙しいとは思いますが、家族で共有する時間を意識的に増やして、お子さんの共生意識を育ててください。
親学推進協会講師 杉本哲也
***杉本哲也氏***
昭和54年生まれ、大阪府八尾市出身
京都大学大学院工学研究科修了
味の素株式会社、松下政経塾、衆議院議員政策担当秘書、総合幼児教育研究会客員研究員を経て現在
幼稚園・保育園の経営者向けの塾・自彊不息塾塾長
幼年国語教育会 理事
一般社団法人 実践人の家 理事
国内の保育園・幼稚園だけでなく、フィンランド、オーストラリア、シンガポール、インドネシア、バングラデッシュ、ミャンマーなど海外の幼稚園・保育園・小学校でも幅広く講演をしている